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楽器

フリッツ・クライスラーが、一体どのような名器を使って、あの様な音を出したかということは、大変興味をそそられるテーマです。

 名声を確立してからのクライスラーは、その後の演奏家としての生涯を通じて、高価で世界的にも貴重なオールドヴァイオリンに対し、非常な愛好と関心を寄せ続けました。

 実際、ヴァイオリニストの中で、クライスラーほど、いろいろな楽器をとっかえひっかえした演奏家はいない、とさえ言われるのです。

 比較的長期間愛用したものだけでも、たとえば、次のようになるでしょう。
  (かならずしも、使用年代順にはなっていません。)

   グランチーノ

   ガリアーノ

   グァルネリウス
    (?年製 号"トンブレー"?)

   グァルネリウス
    (1737年製 号"ハート"?)

   グァルネリウス
    (1733年製 号"クライスラー"?)

   ストラディヴァリウス
    (1733年製)

   ストラディヴァリウス
    (1734年製 号"ハックニーのアムアースト卿")

   ストラディヴァリウス
    (?年製 号"プリマウス伯爵")

   ヴイヨーム
    (?年製 伝パガニーニ所持のグァルネリウス模造器)

 

 しかしながら、彼が、ことさらに一つの楽器に執着したとか、ここぞという場合用のとっておきの楽器を取り出したとか、のエピソードは伝えられてはいません。

 クライスラーは、良い楽器であればどれを使っても、彼の、変わらないあの「黄金の音」を取り出すことができたといいます。
 一方ちなみに、クライスラーは、弓に対して、楽器の場合ほどの関心はなかったとみえ、コレクションに凝ったり、いつも決まった特別な名弓で弾く、ということもなかったようです。

 なお、クライスラーがこのように、一時期に何挺もの素晴らしいヴァイオリンを所持(多いときには六挺あったそうです)していたのには、単なるコレクション以上の、ちゃんとした理由もあってのことでした。
 彼の説明によれば、ヴァイオリンは感じやすく、人間と同じように、ある程度使った後は、通常半年から一年ほど休ませてやらなければならないし、しかも休ませた後にもう一度弾きこんで、もとの音に戻るようにケアを忘れてはいけない、とてもデリケートなものなのだそうです。

 クライスラーは、ヴァイオリン一般に関しては、次のような発言をしています。「フリッツ・クライスラー」から引用しますと、
いわく「ヴァイオリンの音をつくりだすのは、演奏者であって、ヴァイオリンではない。(中略)良い楽器とは表現上の妨げになることのもっとも少ない楽器であると定義してもよい。(中略)それは(注:ヴァイオリンのこと)かんしゃく持ちで、いつも機嫌をとってもらう必要がある。またそれは、自分をゆだねるべき主人を選び、だれにでも仕えるというわけではない。」と。

 また、クライスラーが、ストラディヴァリウスとグァルネリウスを比較して述べた、次の言葉も、大変興味深いものですので、同書から引用させていただきます。
いわく「ストラッドは小さなコンサート・ホールで優れた効果を発揮します。ストラッドがつくられた時代には、演奏会用には小さいホールしかなかったのです。それに比べてグァルネリウスの音はずっと大きいのです。(中略)今日のコンサート・ホールは大部分、ストラッドには大きすぎるのです。」と。

 

 

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