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エドガー・ケイシー
(1877~1945)
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その生涯
その生涯
ここではまず、アメリカのごく片田舎に育ったに過ぎないケイシーが、いかにして、後年の心霊治療師になっていったかの足跡を、前期、中期、後期に分け、ごくかいつまんでご紹介してみましょう。
なお、内容はおおむね、後述の参考文献の「エドガー・ケイシー奇跡の生涯」の記述によっております。ここに、その出典を明らかにいたしますとともに、当該文献に深く感謝申しあげます。
前期
エドガーは、1877年3月18日、アメリカのケンタッキー州ホプキンスビル近くの農園で生まれました。
幼いエドガーが大好きだった父方の祖父トマスは、ちょっと変わったところがあり、テーブルの上の品物を指を触れずに動かしたり、ほうきに勝手に踊りをさせたり、などの特技を持っていたようですが、ちょうど四歳だったエドガーの目の前で、池に入って溺れ死んだのです。
しかし、「死んだ」はずのトマスは、その後何年もの間、自宅近くの古いさびれた納屋に現れて、エドガーに南北戦争の頃のお話などをしてくれたり、一緒に遊んでくれたりしたといいます。そして、エドガーは、その場所では、ほかにもたくさんの男の子や女の子と友達になったらしいのですが、その話をすると周りの大人は、彼が「変だ」と噂したり、叱ったりするのでした。
ただ、彼の母親のキャリーは、子供たちの方は自分も見かけたことがあるからと、彼をかばってくれました。
六歳でエドガーは、家の近くの小学校へ入学し、後に、十二歳になって通い始めた僻地の上級学校も、教室が二つしかないようなところでした。
彼は、家の手助けをするために十六歳でそこを退学するまで、合計九年間の学校生活を送りますが、生涯をとおして、それ以上の専門の教育を受けることはできませんでした。おまけに幼い彼は、学校では、覚えの悪い、劣等生だったといいます。
しかし、そんな彼も、聖書にだけはなぜか、ごく早くから、異常なほどの関心をよせていたようです。
日曜学校で語られる断片的な教えだけではあきたらず、父親のレスリーにねだって、聖書の完全本を買ってもらい、十四歳になったときには、もう何度も全巻を読み返しており、日曜学校の仲間内でも、いっぱしの聖書通で有名になっていました。また、すでにそれ以前の十二歳の頃、エドガーはクリスチャン教会に入信しており、単に敬虔な信者であったばかりではなく、じつに積極的な教会員として、終生変わらず、布教や奉仕の活動にかかわり続けることになったのです。
この時期の彼に、珍しい二つの出来事が、続けて起こりました。
十三、四歳頃の五月のある晩、エドガーは、神がもし自分のことをちゃんと見守ってくれているのなら、その証を示してください。また、これこそ神の愛の表れにほかならないというようなことを、同胞たち
(人々) のために、自分ができるようになりますように、と祈っていたといいます。
最初の不思議は、この祈りの最中に起きました。「エドガー・ケイシー奇跡の生涯」から引用しますと、このようです。
つまり、
「ビジョンを初めて見たときには、まだ眠ってはいませんでした。なのに、まるで体を上に持ちあげられているような感じがしました。昇る朝日のような輝かしい光が部屋中に充満するようでした。すると、ある姿が枕元に現れたのです。私はきっと母だと思い、声をかけました。なのに、答えは返ってきませんでした。」と。
怖くなって、エドガーは母親のところに行きますが、彼女はまるで何も知りません。一人でふたたび自分の部屋へ戻ると、その姿がまた現れました。そしてその神々しく輝く存在は、穏やかにこう言いました。
いわく 「あなたの祈りは聞きとどけられました。願いもかなうでしょう。信義を守りなさい。自分に忠実でありなさい。病人を、悩める者を助けなさい。」と。
やがてビジョンが消えても、驚きと感謝のあまりに、エドガーは眠れませんでした。
翌日、ぼんやりした頭で学校に行くと、ふだんにも増して授業が理解できず、じつに簡単な単語さえまともに書けないありさまです。結局、罰として居残らされて、そのつづりを何百回もおさらいしなければなりませんでした。
家では、それを聞いてすっかり腹を立てた父親に殴られたあげく、ちゃんと覚えるまでは寝かさないと、教科書を目の前に押しつけられて、絞り上げられました。必死の努力にもかかわらず、成果はあがらず、夜中の十一時頃になると、ついに疲労でもうろうとなってきました。
次の不思議は、この時に起きたのです。どこからか、というよりは自分の内から、声が聞こえてきたといいます。やはり「エドガー・ケイシー奇跡の生涯」から引用しますと、
「それは前の晩の訪問者の声を彷彿とさせたが、それは"眠りなさい。そうすれば助けてあげられるかもしれない"と言」ったのだそうです。
エドガーはその直後、父親に頼んで、五分間だけ眠らせてもらいますが、目覚めたときには、その教科書の隅から隅まですべて、ちゃんと頭の中にしまい込まれていたというのです。
それは、まさに驚くべき奇跡でしたけれども、その後の彼は、必要とあればいつでもその才能を発揮することができ、学校での成績も、見る見るうちに向上しました。けれど、なぜ教科書を枕にして眠るだけでものが覚えられるのかは、先生やクラスの仲間、あるいはエドガー自身にすらも分かりませんでした。
後になると、彼は、かならずしも「眠ら」なくとも、その特異な暗記能力を発揮することができました。十六歳の頃、彼は、アメリカ大統領の年頭演説のコピーに、三回ざっと目をとおしただけで、その長い内容をすっかり暗記してしまい、学校でのちょっとした発表会で、教師や父兄たちを前に、堂々とスピーチのまねを演じて見せることができたそうです。
こうして思春期にさしかかったエドガーの好みは、いわゆるふつうの「男の子」とは、かなりかけ離れたものでした。
彼は、少年たちが熱中する野球やフットボールなどに溶け込んでいけず、自分より小さな男の子や女の子とばかり遊びたがり、先生からよく注意されていました。
ある日、思い切って仲間の球技の遊びに参加したエドガーは、まごまごする内に、後頭部か背骨にボールの直撃をくらって、一時的に完全な錯乱状態になってしまいます。何をしているのかの自覚もなくなり、早退して妹に家まで連れ帰ってもらった後も、辺りに物を投げちらしてみたり、壁をげんこつで叩いてみたり、夜中じゅう、家族が寝ずに彼を見張っていなければならないほどでした。
しかし、こうしてベッドに寝かせられている間に、不思議にも、自らの症状にたいする処置の「指示」を出したようで、そのとおりに治療が施されたせいなのか、明くる朝は、正気に戻った爽快な気分で目覚めたのでした。もちろん、エドガー自身には、事故の後の記憶は、まったくありませんでした。
ちなみに、こうしたアクシデントをきっかけにして、眠っていた霊能力が発現することは、世間ではけっして珍しいことではないのだそうです。
さて、十六歳になるかならない頃、エドガーは、ベスという初恋の女の子に、自分の真剣な想いと将来の夢を告白します。しかし、彼女からは、エドガーが「男らしい男」ではないことと、「頭が良くない」と聞かされていることを理由に、あっさり振られてしまったのです。おまけに、ベスの父親である精神科医からは、例の事故のけががもとで、いずれ頭が変になるだろう、などと残酷な告知までされてしまいます。
それでも、心からはあきらめきれないエドガーは、少しでも「男らしく」なりたいと、その後しばらくの間、男っぽさだけが取り柄のろくでもない連中と、進んでつきあったりしました。
しかしやがて、彼にとって一番のお手本だったトムは、女と駆け落ちして、急に彼の眼の前からいなくなってしまいました。さらに、刺激と娯楽を求め、一人だけでポニーに乗って、サーカスのかかった遠い町に出かけていく途中、それまでなんでもなかった馬が、突然足の具合を悪くして、それ以上前に進まなくなってしまう、という変わった体験もします。
それらの偶然の出来事は、エドガーに、自分のいま求めている道は、自分に与えられた道ではない、と少しずつ感じさせるきっかけになったかも知れません。しかしそれ以上に、彼をもとの彼に引き戻したのは、家庭経済の悪化だったのでしょう。
やがて、十六歳のエドガーは学校を退学し、家計を助けるために、おじさんと農園で一緒に働くことになりました。
この頃、エドガーの最大の理解者は、祖母のサラだったようです。
彼女は、エドガーが納屋で祖父 (彼女の夫) や子供たちと会って話していることも、けっして疑ったことがありませんでした。また、傷心の彼を力づけるために、例のけがが原因で頭が変になることなどはない、と断言した後、これからは何でも母親に相談するのがよいこと、聖書の教えだけは守ること、などを優しくさとしてくれました。
そのサラも、その年の夏、エドガーだけに看取られて亡くなってしまいます。
翌年の初め、彼の一家は、ホプキンスビルに引っ越しますが、彼だけは農園に残って、それまでどおり懸命に働きました。ところが、サラのまさしく一年目の命日にあたる日の午後、再びビジョンが現れ、彼はまた天の声を聞いたのです。
「エドガー・ケイシー奇跡の生涯」から引用しますと、それはこのような言葉であったといいます。
いわく 「鋤を手ばなしなさい。お母さんのところへ行きなさい。あなたがそばにいてあげなくてはなりません。道はほどこされるでしょう。さあ行きなさい。」と。エドガーは、そのまますぐ農園に別れを告げ、その声の導きのままに、ホプキンスビルの家族の元に向かったのです。
その後まもなく、新たに書店の店員となった彼は、この町で、重要ないくつもの出会いを持ちました。
信仰上の出会いの中では、町に説教に来ていた大衆伝道師ドワイト・ムーディと知り合い、ただ聖書と自分に訪れるビジョンの導きにしたがって、人々のために自分の信義を尽くしなさい、と教示を受けたこともありました。
けれどなんといっても、最もかけがえのないものこそは、生涯の伴侶であり盟友ともなった、ガートルード・エヴァンズとの出会いでした。彼女は、十八歳になっていたエドガーの、最初にして真のガールフレンドとなったのです。
しかし、書店が廃業するなどから急に生活が不安定になったエドガーが、彼女とようやく婚約 (それすら、結婚の日取りは未定のままでした) することができたのは、彼二十歳の直前のこととなるのでした。
やがてエドガーは、よりよい収入を求めて、婚約者を町に残したまま、都会のルイビルで就職することになりました。
(続く)
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