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クライスラー小史
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あなたは、フリッツ・クライスラーを聴いたことがありますか?
もし、あなたご自身が、私と同じようにアマチュア演奏家あるとか、ヴァイオリンを習うお子さんをお持ちであるとか、ヴァイオリンにいくらか関心がおありであるならば、フリッツ・クライスラーの名前は、きっとどこかで耳にされたことがあるに違いありません。
なぜなら、彼は、軽音楽にもアレンジされている、いくつもの親しみ深いヴァイオリンの小品の、作曲ないし編曲者でもあるからです。たとえば、「美しきロスマリン」も、「愛の喜び」も、「ウィーン奇想曲」も・・・。
けれど、これらの作曲者としての知名度にもかかわらず、皆さまの中で、レコードをとおして、クライスラー自身のヴァイオリンの演奏に耳を傾けた経験のある方は、おそらくけっして多くはないと思います。
日進月歩の、目まぐるしい世情の移り変わりの中で、ヴァイオリン演奏界とても、その例外ではありません。
今日、東京のみならず地方にも、すばらしいコンサートホールが整備され、来日する世界の名人大家はいうにおよばず、コンクールで上位入賞をとげて国際的な活動を開始した、日本のバリバリの若手ホープたちのすばらしい演奏が、生で目の当たりに鑑賞できる時代になりました。さらに加えて、高画質高音質のハイビジョン放送が充実し、デジタル録音のCDやDVDが普及する中、4分の3世紀を超える「ほこり」にまみれた、録音状態も良くないクライスラーのレコード演奏に、わざわざお金と時間をかけて、じっと耳を傾ける必要性を、いったい誰が感じることでしょう。
しょせんは、クライスラーの「愛聴者」は、二十世紀前半に一世を風靡した彼を懐かしむ、一部の、SPレコード「赤盤」アーチストのファンか、(私のような)変わり者のヴァイオリン好きくらいのものさ、というのが、いわゆる、常識的なものの見方というものです。
しかし私は、けっして、別にその常識に反抗するなどの大それた意図ではなく、ただ、私の中に生き続ける、風変わりな「クライスラーへの愛着」の趣味を、この広い世間のどこかには、ひょっとして共有される方もあろうかと、このお品の形で、ご紹介したく思うだけなのです。
フリッツ・クライスラーの音楽の魅力を、言葉によって、具体的かつ納得いただけるようにご説明することは、私には荷が重いというものです。
しかしもし、あえてひとこと申し上げるとすれば、彼の音の響きは、どの演奏家にもまして「透明」だ、と私は思います。たとえばちょうど、遙かどこまでも高く澄み切った、日本の秋の空のような懐かしさと暖かさのある音色で、彼は直接に、私たちの心の奥深くに語りかけてくれます。
著作権の問題がある為、インターネットのこのメニューから、たとえその演奏の一部なりとも、具体的にご紹介できないことは、大変残念なことです。せいぜい、「まあ、だまされたと思って、一度聴いてみてはいかがでしょうか」と、付け加えることしかできません。
しかし、皆さまが、実際に、レコードなりCDなりでお聴きになるかはともかく、私は、クライスラーの音楽の参考資料を、一つでも二つでも、私なりに皆さまにご提供できれば、と思うのです。
そして、それは、フリッツ・クライスラーにたいする変わらぬ敬愛の念から、でもありますし、アマチュアとしてかれこれ40年、ヴァイオリン音楽を愛好してきた私自身のため、でもあります。
なお、内容上、ご説明文中に少なからず、ヴァイオリン音楽の専門用語とか人名また作品名などが入りますことを、あらかじめご承知おきください。また、それらに対して、細かくコメントいたしておりませんことを、お詫び申し上げます。
(
2007年1月14日
更新)
クライスラー小史
フリッツ・クライスラーの音楽は、じつは、彼の生き方ないし人格そのものと深く関わっている部分がある、とよくいわれます。
したがって、クライスラーの音楽の資料をご説明する前に、彼の生涯の概略を知っておいていただくことは、とても意義あることと思います。
伝記ではありませんので、ここでは、彼の前半生 (第一次世界大戦ごろまで) を中心として、ごく主要な出来事のみかいつまんで、ご紹介いたします。
この小史をまとめるに当たり、別項 「クライスラーの資料」 に掲出の各種文献を、参考にさせていただき、また、一部はそのまま引用をさせていただきました。中でも、伝記
「フリッツ・クライスラー」 に負うところが大きく、とくに断り書きのある場合を除き、おおむね、その記述内容に依拠しております。
ここに、その出典を明らかにいたしますとともに、各文献に深く感謝申し上げる次第です。
03/10/14更新
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